第588夜:力さんの大正期誓型2
先週末に昭和の巨星が2つ相次いで亡くなった。落語家の三遊亭円楽さんは昭和25年の早生まれで筆者とは一か月違いの同い年、プロレスの猪木さんは同じ難病を宣告された同病者でもある。とても他人事とは思えないお二人のご冥福をお祈りしたい。さて、国恵志堂が重点的に蒐集を行っている鳴子系こけしの中でも、大沼誓一家のこけしは特に力を入れているものの一つである。その大沼力さんの大正期の誓型に関しては第550夜で紹介した。大正期の誓こけしは結構良く知られており、中に十日月目のこけしもあり、保存は良くないが国恵志堂コレクションにも1本入っている。その十日月目の力こけしが一か月程前にヤフオクに出品された。珍しいこけしであったが人気は無いようで、出品価での落札となった。今夜はそのこけしを紹介したい。口絵写真はその表情である。
こちらがそのこけしである。大きさは8寸2分で保存状態は良く、胴には薄く黄色が塗られている。この手の力こけしは実際に見たことが無かったが、「わたしたちの 大沼力」(名古屋こけし会発行)の中に写真があった。そこには昭和53年の1月、2月、3月と5月の4本が載っている。同型のこけしであるが、胴模様が僅かに変化している。この手のこけしは他に掲載が無いことから、この53年の前半にのみ作られたようだ。胴模様の様式から、本稿の作は3月または5月のものと思われる。
十日月目の誓こけし(右)と並べてみた。胴模様はやや異なるが、この手の誓こけしを元に作られた復元作であることが分かる。今でこそ鳴子系のこけしは定寸では二側目が殆どであるが、大正期には高橋武蔵の古作にも十日月目が見られ、大沼又五郎や高橋勘治の大寸物でも上下の瞼が上下に膨らんだ十日月に近い形の目が残っている。大正期の鳴子こけしは多様性に富んでいたことが推測されるのである。力さんの作は「原」こけしを良く写しているが、頭がやや丸く、胴も中反りが大きくスマートな木地形態である。「原」は胴も太くどっしりとして風格が漂っている。
両者を斜め上から比べてみた。大正期誓こけしの頭頂部の水引は独特なものであり、これは良く写されている。筆数の多い平たい鬢や十日月目も良いが、口は「原」は赤1点のようだ。残念なのは、胴上部の鉋溝が浅いことと肩上面に赤ロクロ線が塗られていないことである。このため、写しは胴上部から肩の山にかけての部分があっさりしていて「原」の持つ重厚さが見られないことである。
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