第593夜:喜代治が来た!
昨夜終了したヤフオクで、野矢俊文さんの6寸こけしが何と19万円で落札された。次点とは千円差、他に4万円台の入札者が2名。ヤフオクとも長い付き合いであるが、「超」が付く驚きであった。出品者の「ひやね」さんには嬉しい誤算かも知れないが…。さて、先日こけし屋のAさんから、こけし紹介の話が来た。中に戦前の奥山喜代治があるというので、見せて貰うことにした。これまで喜代治のこけしには縁が薄く、戦後の余り状態の良くないこけしを数本持っているだけであった。それだけに戦前の作には食指が動いた。会って見せて貰うと、保存状態も上々のなかなかの良品であり、譲って貰うことにした。今夜はその喜代治のこけしを紹介しよう。口絵写真は表情である。
こちらがそのこけしである。大きさは9寸。昭和18年の作という。喜代治は大正10年に奥山運七の養子となり木地修業を始め、大正12年からは最上木工所の職人となって働いたが大正期のこけしは確認されていないようで、昭和4,5年頃からのものが知られている。運七が亡くなった昭和14年以降、特に16年から戦後までは炭焼きが主業となって、こけしは殆ど作っていない。但し、18年には纏まった数を作り仙台の南北堂が売りだされた。この18年の作は整った表情で安定感のある優作である。また、胴のロクロ線には赤や緑、紫も使われ、肩の山の部分も塗られている。胴の重ね菊は花芯部を丸く残しており、斎藤伊之助とよく似ている。本作は正にこの特徴を備えており、面描は凛として品格があり、胴のロクロ線は下部の畳付きが赤、肩部は赤と緑で飾り、首下は赤で太く塗られている。
頭と胴底である。首下に赤いロクロ線が覗いている。
斎藤伊之助のこけし(右)と比べてみた。胴の重ね菊の描き方は全く同じである。菊花の中央に上と下に凸の花弁を2つ丸く描いて花芯を囲み、そこから左右に水平の花弁を延ばしている。花芯の真ん中には喜代治は大きな緑点を一つ、伊之助は点状の小さな緑点を多数入れている。この二人がどうしてこのように同じ様式の重ね菊を描いたのかは分からない。
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