第591夜:改めて文吉(1)
佐藤文吉のこけしは、愛好家の多いこけしの中でも最右翼に列せられるこけしと言えるだろう。こけしブーム華やかなりし昭和の時代、文吉こけしに魅了され、猛蒐集に走り回ったと北村勝史氏は「木の花(第8号)」の『戦後の佳作』で述べている。そして、戦後の文吉のピークは2つあり、第1は昭和36年、第2は昭和39年末から43年末であると。先日ヤフオクに、この第2のピーク期の作と思われる作が出品され、入手したので紹介したい。口絵写真はその表情である。
こちらがそのこけしである。大きさは1尺1寸9分。保存状態は極めて良く退色は見られないため、華麗な描彩を堪能できる。第2のピーク期の中でも完成度の高い昭和41年の作と思われる。そんなことからかなりの高額になると予想されたが、結果は出品価の1500円の3倍にも満たない価格であった。こけしが全般的に高騰したこけしブームの頃を想うと隔世の感である。
少し前の昭和40年の作(左)と比べてみた。左作は大きさが1尺2寸2分とやや大きい。胴が太く、頭が縦に長いようだ。左作は胴の木地の木目にシミが出てきており、木地が白いためにやや眼に着く。顔に出て来ないように祈るのみだ。2本とも胴模様は大きな牡丹を2つ重ねた代表的なもので、胴のロクロ線の配色は全く同じである。表情を比べてみると、左作では二重の上下の瞼が両端でやや離れているが、右作ではきっちりと繋がっている。また、左作では口が「ベロ口」であるが、右作では通常の二筆口になっている点に違いが見られる。
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