第595夜:津軽こけしの源流を求めて(諒祐1)
コロナの第8波が懸念される中、日本中が歓呼の中で師走を迎えた。サッカーW杯で日本が強豪のドイツ、スペインを撃破して決勝トーナメントへ進んだのである。当初の予想を覆すこの快挙は今年最後を飾る明るい出来事であり、決勝トーナメントでの更なる朗報を期待したい。さて、ここのところ更新が滞っている本ブログも、このサッカーの勢いに力を得て先に進んでいこう。今夜は、津軽系の新人、盛諒祐さんのこけしを初めて取り上げて紹介する。
津軽こけしの魅力の一つに、その始原性・呪術的なグルーミーさがあることを挙げる人は多いだろう。盛秀こけしの初期の作品に見られるこれらの特徴は、戦後の盛秀こけしからは消えて行き、その後継者である奥瀬鉄則・陽子さんは、スマートで愛らしさを加味した華麗な津軽こけしを作り上げた。奥瀬恵介さんは両親の築き上げた方向ではなく、津軽こけしの源流を目指したこけしに挑戦し、その目的をかなり達成して愛好家の期待に応えていたが、残念ながらこけし製作から離れてしまった。そんな中で、盛美津雄さんの息子である諒祐さんがこけし作りを引き継ぎ、しかも初期の津軽こけしの再現に取り組んでいるのは嬉しいことである。最近は製作数も増えてきたようで、大阪こけし教室や東京こけし友の会の例会頒布にも見られるようになった。筆者はコロナ禍で未だ例会に出席できないが、弘前のこけし愛好家であるA氏より諒祐こけしをお譲り頂いたので、恵介こけしと対比しながら紹介したいと思う。
こちらがそのこけしである。大きさは5寸。胴模様に亀の甲羅を思わせる円盤から手が伸びているような図柄を描いていることから、通称「4足亀」と呼ばれている盛秀古型である。昨年春から製作を始めた諒祐さんは未だ木地挽きにも慣れていないようで、大きさは5,6寸までが中心で大寸物は手掛けていないようである。この4足亀の「原」は「こけし這子の話」で紹介された7寸4分のこけしである(第221夜:天江コレクションのこけし達を参照)。肩が張り胴中がやや縊れた太い胴はボリューム感たっぷりで迫力に富む。鯨目状に波打った眉目は顔の中央に寄り、点状の眼点は強烈でグルーミーな雰囲気が横溢している。諒祐さんの作品は木地形態、描彩とも未だこれからという状態であるが、素朴で手慣れていない分面白さもあり、点状の眼点の鯨目には古津軽の不気味さが垣間見られる。今後の変化が楽しみなこけしである。
恵介さんの初期の同型こけし(右)と並べてみた。並べてみると、恵介さんのこけしはかなり手慣れていることが分かる。
また、陽子さん、恵介さんの初期のこけしには胴底に製作ナンバが記載されているが、諒祐さんは製作年と署名だけである。
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奥瀬恵介さんがこけし制作から離れてしまったと聞いた時、これで盛秀こけしも途絶えてしまうのかと心配しましたが、美津雄さんの御子息である諒介さんが後を継ぐとの事で、安心しました。
投稿: 益子 高 | 2022年12月 3日 (土) 15時16分
益子 高 様
コメントありがとうございます。
全くですね。美津雄さんも頑張っているようなので、
盛秀直系の親子でしっかりと継承してもらいたいものです。
投稿: 国恵 | 2022年12月 3日 (土) 18時51分