第604夜:正吉の初期こけし
今年最初の「大物」を入手した。佐藤(大原)正吉のこけしである。年が明けて、書肆ひやねの「こけし往来(第71集)」が届き、その委託入札の頁に載っていたものである。ひやねは最近はヤフオクにも精力的に良品を出品しており、そちらで入手する方が多くなったが、長年の付き合いである往来は勿論気になる存在である。米浪旧蔵というそのこけしの鋭い視線に魅せられて応札した。最低価が相応のものであったせいか応札は他に無く入手することが出来た。今夜はその正吉こけしを紹介したいと思う。
遠刈田系の佐藤正吉は大正期からこけしを作っており、戦後に渡る長い期間の作品が残っている。その最初期のこけしは元村勲氏の蔵品で「こけし襍記」に掲載されているものである。そこには、大(7~8寸)が5本、小(6~7寸)が4本のこけしが写っており、正末昭初の作とされる。大はやや角張った縦長の頭で、目は顔の下方に描かれて眉と目の間隔が開いている。また鼻は猫鼻である。一方、小は丸みをおびた縦長の頭で、目は顔の上方で眉との間隔は狭い。鼻は割鼻である。これから、正吉が大きさによって描き分けていたことが分かる。
さて、こちらが今回のこけしである。大きさは7寸5分。鼻は異なるが、「こけし襍記」の大こけしに似た様式のこけしである。縦長のやや角張った頭、前髪は縦に長く、その後ろの頭頂部には青点が打たれている。その青点から放射状の手絡が描かれ、真後ろの1本はくねっている。眉・上瞼の描線は細いが長く伸び、目は顔の下方三分の一の辺りに描かれている。眼点は下瞼からはみ出して視線は強く迫力のある面描である。鬢は長く、上は前髪の中ほど辺りから顎近くまで垂れている。肩はなで肩に近く、胴上下には紫のロクロ線が2本ずつ引かれている。そのロクロ線の間に大きな重ね菊を三段に描いている。
手持ちの古い正吉こけし(右:橘旧蔵品、第956夜参照)と比べてみた。右作は、これも鼻は異なるが「こけし襍記」の小こけしの様式に近いようだ。筆者は正吉のこけしが好きなので各年代の作を集めているが、今回最初期に近い作を入手することができ、今年も楽しみなこけしライフの幕開けとなった。
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