第605夜:松三郎の美人こけし
筆者がこけし蒐集を始めた昭和40年代の末頃は第二次こけしブームの最中で、老工や人気工人のこけしは入手難になっていた。鳴子系では大沼健三郎と伊藤松三郎が「両三郎」などと呼ばれて人気絶頂であった。その1本のこけしを求めて長蛇の列が出来、それでも抽選などによって限られた者しか入手は出来なかった。今思うと正に「こけしバブル」といった状況だったのである。先日、松三郎の見慣れた作とは異なる表情のこけしがヤフオクに出て、入手することができたので紹介したい。
こちらがそのこけしである。大きさは9寸、退色も無く保存状態は頗る良い。その瑞々しく愛らしい表情から、最初は松一のこけしかと思っていたほどである。戦後の松三郎のこけしをあれこれ思い巡らしても、このような表情のこけしは思い浮かばない。そこで戦前のこけしを探してみた。kokeshi wikiには、鴻頒布(昭和15年)の写真が載っており、その大こけしと目の感じがよく似ている。戦前の松三郎こけしは未だあどけなさが残る童女であるが、戦後の本作では健やかに成長した美麗な乙女となっている。確かに共通点はあるようだ。松一のこけしも探していたら、今回の松三郎に良く似た作が第498夜に載っていた。この498夜の松一は昭和35年4月の友の会頒布品。当時松一はプロパンガスの仕事で忙しく、あまりこけしを作っていなかったという。また「こけし」(美術出版社、昭和31年7月発行)に掲載されている松三郎こけしも本作に近いことから、本作は昭和30年代の前半のものと推測される。
手持ちの昭和30年代と思われる松三郎(右)と並べてみた。木地形態、全体の色調、胴底が鋸切りで署名が胴裏に書かれているなどの共通点がある。但し、表情はやや異なっている。右こけしは昭和30年代の後半か…。昭和20年代から30年代の松三郎こけしは数が少なく、あまり知られていないようなので、今後も注目していきたい。
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