第623夜:西山敏彦の太治郎型
ここのところヤフオクでは斎藤弘道の昭和33年作など注目すべきこけしの出品が続いていた。そんな中、西山敏彦の太治郎型と思われるこけしが出品された。太治郎型に力を注いでいる筆者にとっては見逃せない作品。満を持してオークションに参加したが、2千円に満たない価格での落札となりちょっと拍子抜けでもあった。今夜はその敏彦こけしを見てみたい。口絵写真は太治郎型の表情である。
こちらがそのこけしである。大きさは8寸5分。胴底の書き込みには「H22.4」とあり平成22年のものか…。弘道が高齢のためこけし製作から引退したのは平成27年のこと。敏彦作が平成22年ということであれば、弘道が未だこけしを作っていた時期のものということになる。敏彦がどのような経緯でこのこけしを作ったのか、弘道の了解を得ていたのかなど詳細は分からない。
弘道のこけし(左:33年11月)と比べてみよう。先ず木地形態。昭和33年頃の弘道のこけしは頭は縦長、胴は下部が膨らんだエンタシスの形である。敏彦のこけしは頭はほぼ同様であるが、胴は上部も膨らんでいてエンタシスにはなっていない。胴模様は太治郎本型と言われるものであるが、その特徴である赤と紫の波線の幅が、弘道作は赤より紫が広くなっているが、敏彦作では反対に赤の方が広くなっている。そのため敏彦作では赤の波線が間延びして白地の部分が大きく見えており、胴模様としての完成度は低いと言える。
こちらは表情である。面描では、太治郎型の緻密で丁寧な描彩を真似るのは難しいようで、特に一筆一筆をなぞるように丹念に描く前髪(劉海髪)には相当な開きがある。なお、この敏彦こけしは頭にガラが入っていて音がする。これは太治郎や弘道のこけしにも類例があり、玩具っぽい作り面白い。弘道が引退して太治郎型を作る工人が居なくなった今、太治郎の師匠である西山辨之助の直系である敏彦が太治郎型を作ることは意義のあることであり、継続して貰いたいものである。
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