第637夜:「辞典」のこけし(佐藤菊治)
最近のヤフオクには、著名なこけしの文献に載っているこけしがしばしば出てくるようになった。こけしの図録には多くのこけしが掲載されているから、今後もこのようなことは増えていくのであろう。今夜紹介する佐藤菊治のこけしも「こけし辞典」の他に、平凡社カラー新書39「こけしの旅」にカラーで掲載されており代表的なこけしの1本に入るものなのであろう。実はこのこけしに筆者は因縁があり、そのことからも是非入手したこけしであった。口絵写真はその表情である。
東京こけし友の会の毎月の例会では、会員の有志がこけしを持参して解説を行う「例会ギャラリー」というコーナーがある。現在はコロナ禍のため中断しているが近々復活すると思われる。平成9年2月のこのコーナーでは後に会長になる小川一雄幹事が「菊治と忠のこけし」と題して佐藤菊治と息子の忠のこけしを取り上げて解説を行った(こけし手帖434号にその記事が掲載されている)。小川氏の解説を引用しよう。「写真上の菊治は中屋氏旧蔵の昭和10年の作で、今は私の手許にある。三日月目大きくなりユーモラスな表情となっているが、見どころは多い。ユーモラスではあっても迫力があり胴の重ね菊もゆったりと描かれている。この時期における代表的な1本ということができよう。」と。
それから10年近くが経った平成18年になって、小川氏が所蔵こけしを整理することになり、そのお手伝いとしてヤフオクへの出品を担当した。その出品こけしの中にこの菊治のこけしが入っていた。手元に預かってその素晴らしさに魅了されたが、その時点では入手することは叶わず、落札された方の所に行ってしまった。その後、古品にも手を出すようになってからは、悔恨の想いがつのったものである。
こちらがそのこけしである。10年振りに見る菊治こけしは胴の緑と紫の色がやや薄くなった気がするが表情が醸し出す圧倒的な迫力の輝きは健在であった。頭頂部の手絡模様や胴の重ね菊模様は手馴れた筆跡でさらさらと描かれている。反して面描は大きく湾曲した三日月目と更に湾曲の大きな眉、筆跡も生々しい前髪と鬢、紅の入ったおちょぼ口が何とも愛らしい。
胴の裏側に目を向けると、こちらは退色が無く紫のロクロ線が上下を締めている。そしてその間を埋めるように描かれたアヤメ模様の立派さに目を奪われる。こちらを正面にしても遜色が無いほどである。
頭頂部の手絡模様と胴底の様子も示しておこう。
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