第634夜:佐藤照雄の初期こけし
長い事こけしの蒐集を続けていると、特に力を入れて集めるものが出てくるものである。筆者で言えば勘治型や栄治郎型、太治郎型などがその最たるものである。遠刈田系では直治型をよく集めたが、一筆目の静助型も気になるこけしであった。その創始者である佐藤静助は大正時代から木地挽きを行っていたが、その頃のこけしは発見されていない。昭和13年3月に福島県の曾根田(殿田)で独立開業し、高久田修司氏、深沢要氏の要請によりこけしを作り始めたが、翌14年2月に他界したため残るこけしは少ない。甥の照雄もこの時に一緒にこけしを作り始めたという。今夜は照雄の初期と思われるこけしを紹介しよう。口絵写真はその表情である。
静助型を集めるとなれば、元祖の静助こけしが1本は欲しいところであるが、未だに縁なく所蔵していない。次に古いものと言えば照雄のこけしであるが、その戦前作はやはり殆ど市場に出て来ない。そんな照雄のこけしがヤフオクに出てきた。しかも橘文策氏の「こけしと作者」掲載の現品という。これに筆者の食指が動かないはずはなく、運良く国恵志堂コレクションに迎えることができた。
こちらがそのこけしである。大きさは6寸2分。頭はやや角張って、胴は裾にかけて広がっており、三角胴に近い。底に貼られてた紙片の記載から、照雄の福島時代(S13年)の作で「初作」とある。kokeshi wikiには照雄の同じく昭和13年10月に深沢氏が入手したという作が載っているが、表情等は静助に肉薄するほどになっている。それに比べると本作の面描は何とも稚拙で手慣れていない。初作という言葉がぴったりする。更に気になるのが胴模様。緑で描かれ、まるで木の幹と枝のように見える。一体何のであろう…。遠刈田系でこんな模様は見たことがない。
こちらが底紙に貼られていた紙片である。橘氏が貼ったものではないようだ。
戦後の照雄作(右)と並べてみた。肩の張り具合に戦前作と戦後作の違いが垣間見られる。
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お久しぶりです
久しぶりに、素敵な作品を拝見させて頂いております 胴の模様ですが、
私には、上の方に花を描いていたけれど、薄くなって、花の茎と葉っぱのようにも見えました。
投稿: 松原 | 2023年6月25日 (日) 23時58分