第642夜:斉一さんの斎古型
鳴子の岡崎家のこけしは典型的な鳴子こけしと言って良いだろう。戦後の鳴子こけしに広まった所謂「鳴子共通型」のこけしは、岡崎家のこけし特に胴の菱菊模様を手本にしたものと言われている。温和で品格のある表情も一般受けの良いものであり、売れ行きも良かったのであろう。そのためか、斎から斉司、斉一と引き継がれたこけしは変化に乏しいのが玉に瑕であった。先日、ヤフオクに2本ペアで斉一こけしが出品されていたが、内1本はよく見かける斉一こけしとは趣が異なり興味を持った。それでも応札者は他に無く、最低価で落札された。今夜は、その斉一こけしを見てみたい。
こちらがそのこけしである。大きさは9寸3分。先ず目に付いたのは、胴裾部の赤ロクロ線が通常作の倍くらい太く、その上に鉋溝が1本挽かれていることである。また、肩の上面にも赤ロクロ線が引かれて濃厚な味わいを醸し出している。胴模様の菱菊の描法も古風で、下部の土の筆致は太く波打って躍動感に富んでいる。戦後は均整のとれたおとなしいこけしを作った斎も、大正期から昭和初期にかけては、横広の大きな蕪頭に太めの胴を付け、胴裾の鉋溝がアクセントになった豪快なこけしを作っていた。本作は頭は蕪形ではないが、胴の様式は明らかに斎の古型を意識した作であることが伺われる。頭部の形と面描は通常の斉一こけしと殆ど変わらないが惜しまれる。しかし、復元作を殆ど作らない斉一さんのこけしとしては特筆すべきこけしと言えるだろう。
戦前の斎こけし(S15頃)と並べてみた。この頃になると斎こけしはほぼ完成されたものとなり、頭は縦長でやや角張り眼点がやや大きく温和で上品な表情となる。胴は肩の山が高くなるが裾部の赤ロクロ線は細くなり、鉋溝も無くなっている。この斎のこけしと比べても斉一こけしの胴の形態・描彩は素晴らしく、このような作をもっと作って貰いたいものである。
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