第647夜:長谷川清一のこけし(初期)
長谷川清一のこけしがあるとの紹介を受けて見に行ってきた。鳴子系が好きな筆者ということで声をかけられたようだ。小松五平や高瀬善治などの外鳴子系も好きでそれなりに集めていたが、長谷川清一は良品に出会うこともなく、第127夜の1本を有するのみであった。そのため、あまり期待もせずに行ってみた。7寸程の清一のこけしは古色が付いているが退色はなく新品のような状態で当初は古いものと感じられなかった。しかし、じっくり見てみるとその素晴らしさがジワジワと湧き上がってきて思わず魅せられてしまったのである。口絵写真はその表情である。
長谷川清一の略歴は第127夜で記したが、残るものでは「こけし・美と系譜」の㉗鳴子系2(37頁)に掲載された米浪旧蔵品(現:鈴木氏蔵)が正末の作とされる。次に古い物では「日本郷土玩具」の秋田縣(69頁)に掲載された武井武雄旧蔵品で昭和4年3月の入手とある。また、「こけし往来(第19集)」の写真2(61頁)に掲載された5寸8分も昭和初期とされている。この辺りが清一の初期こけしと言われているものである。
さて、こちらが今回入手した清一のこけしで大きさは7寸。古色と思われたのは朴材の地色であった。また退色が無いのはエナメル塗料が使われているからであり、それは清一の初期こけしの特徴でもある。頭頂部が扁平な蕪形の頭、胴は中程でやや括れ、胴上下には浅い鉋溝が引かれ、その外側を太い赤ロクロ線で締めている。肩の山にも同じ赤ロクロ線が引かれている。「往来」の写真2の解説には赤の色は小豆色で緑は黒に近いと記されているが、本作の色彩は正にそれに合致している。胴模様は中央に大きな正面菊をぼってり描き、その上下に茎と3筆の大きな葉を添えている。この大胆で野趣溢れる胴模様は他に見たことがない。
次に頭部と面描をみてみよう。扁平な頭頂部の前面に丸に近い形で大きな前髪が描かれている。その後部には小さな後ろ髪が付いている。正面から見ると前髪の先がかすかに見える程度である。鬢は前髪の横前方から描かれており、太いが短く鼻の辺りで終わっている。前髪と鬢の境目には赤い飾りが描かれている。眉と十日月形の二側目は中央に寄っており、眼点は小さめで縦長である。そのため凝視度は強いが、あどけない幼子の表情にも見える。この短い鬢と目の描法は「日本郷土玩具」の清一に近い。口は墨の三筆描きに赤を塗っており大きい。そして顎に引かれた黒い一本線も初期作の特徴である。このように本作は「日本郷土玩具」や「往来」の初期作と同様の特徴を備えており、しかも保存も良いことから昭和初期の清一こけしの代表作と言えるだろう。
胴には木の節の部分も見られ、当時のこけしの材料の質が伺われる。なお、本作は痴娯の家の旧蔵品であったとのことで、胴底には展示の際に倒れないようにするために細棒を差し込む小穴(深さ4.5cm)が空いている。
最後に、昭和10年代の作(右)と並べてみた。その変化は大きいものがあることが見て取れる。
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