第656夜:デビュー以前のこけし(高橋美恵子)
前夜取り上げた通さんにちなんで、今夜はその妹の美恵子さんのこけしを取り上げてみたい。最近は新人工人が少なく希少性があるためか、まだ修業中のこけしが販売品として出てくる事も珍しくなくなったようだ。これまでは、師匠や工人会等の承認をもって正式な工人として認められ、こけし界にデビューするという形をとっていたが、そういうしきたりはもはや過去のものとして無くなっていくのだろう。一方、蒐集家の方はデビュー以前のこけしにも関心があり、そういうものが見つかると入手して保管していた。特に修業に入る前の幼い頃に作られたものは稀品扱いとなっている。今夜のこけしは、美恵子さんの10歳の時の作品である。
こちらかそのこけしである。大きさは3寸8分で作り付である。kokeshi wikiによれば、美恵子さんは8歳の頃から時々、祖父(忠蔵)の木地に描彩をしていたとあるから、こけし一家という環境の中で自然に育まれていったのであろう。wikiには8歳時の美恵子さんの描彩(面描)が載っているが、忠蔵ばりの雅趣に富んだ表情となっている。
頭頂部と署名である。本作は8歳時の作とは異なり、穏やかな明るい表情のこけしとなっている。眼点の墨が滲んで上瞼にはみ出て睫毛のようになっているのも面白い。胴底にしっかりと署名と年齢を記載していることから、美恵子さんに対する周りの期待が伺われる。
その後、正式に木地を習って、こけしを作り始めたのは昭和57年になってからであり、初作近辺のこけしについては千夜一夜(1)の第851夜で紹介した。それらデビュー後のこけしと本作を並べてみた。
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