第659夜:秋保の古作こけし追及
今日から12月、今年も残り一か月となった。友の会の入札で庄七のこけしを入手する2日前、ヤフオクに秋保の古作と思しきこけしが出ていた。8寸の大きさにしては頭が小さく、胴が長いこけしである。保存状態は良くなく、前面の緑色は殆ど飛んでしまっている。しかし、その面描の筆致はよく伸びて表情は秀逸であり、手元でじっくりと見てみたくオークションに参加した。今夜は、運良く入手したそのこけしを見てみたい。
こちらがそのこけしである。大きさは8寸で胴が長く、小さな頭は下膨れ気味になっている。胴底は鋸の切り放しで、端に切り残しがある。署名や書き込みは等は一切ない。当然ながら、誰の作なのか気になるこけしである。胴の上下に2本の太い緑ロクロ線が引かれており、その間に三段の重ね菊が描かれている。そして注目すべきは、一番下の菊花の下にも添え葉がしっかり描かれており、これは庄七の古いこけし以外には殆ど見られない。面描だけ見ても本こけしは素晴らしく、一端の工人のものではないことが見て取れる。
さて、三蔵、庄七、武治、吉雄など、秋保工人の戦前作を調べてみたが、本作に類するようなものは見当たらない。そんな中、「らっこコレクション図譜」に1本のこけしを見つけた。No253で作者は吉田信雄とあり、解説では『「らっこ・これくしょん目録」では秋保吉田信雄作となっており、こけしの底にも同様に書いてある。清水寛著「伝統こけし工人系譜」によると佐藤三蔵の弟子となっているが、詳細不明である。』と。この信雄の家系の項には(架空工人)とも書かれており、この1本しか知られていないようだ。
こちらがその掲載写真で、7寸3分(昭和11年)とある。(「らっこコレクション図譜」より転載)
さて、この信雄のこけしと本作とを比べてみると、信雄作は大きな丸い平頭となっており、本作の下膨れ頭とは形が異なる。しかし、面描は本作は中央寄りで狭くなっているものの、前髪、鬢、湾曲の大きな眉・目などの面描は非常に良く似ている。また、信雄作では胴の重ね菊の最下端に添え葉も描かれており、これも本作と一致する。(但し、信雄作の重ね菊には、庄七と同じ赤い蕊が描かれているが、本作には無い) この信雄が実在工人であれば、本作の有力な候補と言えるだろう。
もう一人、候補を挙げておこう。佐藤吉雄である。まずは並べた写真を見ていただきたい。
こちらが両者のこけしである。吉雄のこけし(右)は胴くびれでやや小さいが、頭と胴のバランスはよく似ている。
頭と面描を比べてみよう。本作に比べて吉雄は筆の筆致がやや太いが、表情は近いと言えるのではないだろうか。頭頂部には両者とも赤で「乙」の字が同じように描かれている。吉雄は昭和5年頃からこけしを作っていたようだが、14年より以前のものは判然としないようだ。そこで、本作を吉雄の14年以前の作として見てみるのはどうだろうか…。古作の追及はいつになっても面白いものである。
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