第667夜:気になる斎こけし(戦前)
しばらく前に入手し、気になるところがあったので本ブログで紹介する予定でそのままになっているこけしが出てきた。鳴子の岡崎斎のこけしである。戦後の鳴子こけしを代表する様式の元になった斎のこけしであるが、変化が少ないということもあってか文献等で纏まって取り上げられることは少ないようだ。「こけし辞典(kokeshi wiki)」くらいであろうか。今回、そのこけしと近い時期の斎こけしを入手したので、それと比べて見てみたいと思う。
こちらの左が問題のこけし(6寸8分)で、右は先日入手のこけし(6寸3分)である。左は胴底に「昭和十四年十月」の書き込みがあり、右はヤフオクの出品解説で昭和12年頃と記載されていた。斎のこけしは大正期は横広の大頭に太い胴の堂々たる作で、昭和初期頃までは平頭である。その後、頭は縦に長くなり、スマートで均整のとれた形態となっていく。本作は2本とも昭和10年代で標準的な斎こけしといえる。左の作は裾にかけてやや広がった胴に丸頭、胴上下に赤と緑のロクロ線を配し、その間を黄色で塗って菱菊を描いている。右の作は胴の反りは少なく直胴きみで頭はやや縦長、胴上下のロクロ線は赤のみの黄胴で、真っ赤な菱菊が鮮やかである。
気になったのは、菱菊の描き方である。斎の菱菊は昭和初期から右作のような様式になっており変化は殆ど見られない。ところが左作では3つほど異なる点がある。
第一は、横菊の花芯部分。斎は右作のように花芯の中央は2筆で左右からかみ合うように描き、その下に大きく横から1筆を入れる。ところが左作ではかみ合う2筆の間に縦に1筆を入れ、その下には小さな花弁を3筆で入れている。
第二は、正面菊の花芯と中央部の花弁。右作の花芯は大きく横1筆描きであるが、左作では2筆を重ねている。また正面菊の花弁は、右作のように真ん中の1本が下に長く伸びるが、左作では2本が長く伸びている。
第三は、土玻の部分。最下部に描かれる土玻は、右作のように波状に描かれるのが普通であるが、左作では2筆で八の字状に描いている。
このように、左作の菱菊の様式は、通常の様式とはかなり異なっている。左作が昭和14年作とすれば、斎の胴模様の様式は既に出来上がっており、どうしてこのように描いたのかは不明である。面描は斎の描彩と思われるが、胴の描彩は別人の可能性も考えられる。
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