第688夜:元村コレクションがヤフオクに!
3月に入ってから確定申告などもあって更新が滞ってしまった。さて2月のこけし界でのビッグニュースと言えば、幻のコレクションと言われた元村コレクションがヤフオクに出品されたことであろう。2月6日の昼過ぎ、いつものようにヤフオクを眺めていると、見慣れた鳴子こけしの白黒写真とそのカラー版、そして写真の「現品」が出ていたのである。それは大沼岩太郎とされるこけし4本であり、その後やはり写真が流布している佐藤正吉9本と高橋胞吉7本も出品された。それら元村コレクションの幾つかを紹介したいと思う。今夜は岩太郎である。
東北大学の元村勲教授が鳴子で岩太郎のこけしとして入手した古作4本は、郷玩誌<きぼこ・3>で写真紹介され、それ以来岩太郎として知られていた。岩太郎直系の秀顯さんが、その元村岩太郎の復元作に挑戦したのは平成27年のこと。その折、秀顯さんは元村岩太郎の「原品」を探して奔走したがその所在は分からず、復元作の大きさは、<こけし辞典>に記載されているものを使った。そのため一番大きなものは1尺で作った(その後、8寸8分に変更している)。今回のヤフオクでの出品では、大きさも記載されており、大きいものから26cm、20cm、15.5cm、11.5cmとなっている。
こちらが出品写真である。白黒写真は<きぼこ>掲載のもの、カラー写真は原品を白黒写真と同じように並べて撮り直したものであろう。原品一本一本のカラー写真も各方向から多数・鮮明に撮られたものが載っており、この写真だけでも有難い。
さて、この岩太郎4本は一本ずつ締め切り時間をずらして出品されており、その締め切りが近づくにつれて入札額は上がっていった。岩太郎に関心がある筆者も参戦し、何とか1本だけでもと食い付いていったが、最終的には財力勝負となって価格は7桁を超え、関西の大富豪コレクターに一本、また一本と刈り取られていった。そして最後に残ったのが一番小さい4寸のたちこであった。ここまでくれば4本目も取られるものと思っていたが、どうした訳か途中から入札が上がらなくなり、そのまま終了を迎えてしまった。1本だけでも残してくれた温情に感謝したい。
こちらがそのたちこである。大きさは4寸。先ず、たちことしての姿が美しい。そして、殆ど退色の無い保存状態の良さ。このような最良の状態で残されたことに感謝である。胴には大きな楓を一輪描き、緑の葉を添えて裾には赤で土玻を入れている。小さい胴全面を活かした巧みな描彩の構成力に感嘆させられる。そして面描である。前髪、鬢を端に寄せて顔のスペースを大きく空け、そこに闊達な筆致で眉・目を大きく描いている。眉目にはアクセントも入り、工人の想いが筆からほとばしっている。他の3本も同様の描彩であり、この4本は特別に作られたのではないかと思わせる。
頭部の描彩と胴底の状態を示そう。胴底は鋸の切り放しで署名は無く、元村コレクションの「元」の字が墨で書き込まれている。
国恵志堂の伝・岩太郎(右)と並べてみた。今回の元村岩太郎が欲しかった理由には、この2本の岩太郎を並べて比べてみたいという強い想いがあった。4寸のたちこと6寸こけし。元村岩太郎は小寸のたちこであるが6寸岩太郎との相性は抜群で良い取り合わせとなった。このたちこ、それなりの高額であったが入手できた満足度は高い。高ぶる気持ちが落ち着いてじっくり鑑賞してみると、6寸岩太郎の古雅な趣に比べると4寸たちこの筆は余りにも鋭い。その分、新しさを感じてしまう。晩年の岩太郎と考えるよりも若い竹雄の筆と捉えた方がしっくりする。kokeshi wikiでは、元村岩太郎を『おそらく木地は浅吉あるいは竹雄、描彩もおそらく竹雄で、眼点のはいらない岩太郎様式を再現して描いたものだったかもしれない。ただ、描彩のみ岩太郎が行ったという可能性はある。 』と評しているが、その評がすんなりと受け入れられる。ともあれ、岩太郎こけしは鳴子こけしの原点を示すものと言ってよく、この2本のこけしは末永く残していかなければならないこけしだと思っている。
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