第695夜:元村コレクション(山尾武治)
秋保の山尾武治のこけしは好きなこけしであり、また戦前から戦後とかなりの作品が残っていることから機会があるごとに入手を心掛けてきた。その集めた作品については、第59夜、60夜で紹介した。しかし、それらは昭和15年位から後のものであり、それより以前のものについては巡り合うことが無かった。今回のこけしはそれ以前の作と思われ、その特徴なども含めて検討したいと思う。
こちらが今回のこけしである。大きさは8寸9分。秋保のこけしと言うと太めの胴に緑のロクロ線を配したものを思い浮かべるが、本作は胴は細く頭は角張っており、遠刈田系のこけしと言った方がピッタリするこけしである。胴上下の緑のロクロ線は太く引かれて長めの胴を引き締めている。三段の重ね菊は細い花弁を多数描き、左側の先頭の花弁は縦に長く流れて先が丸まる庄七の様式と同じになっている。
底書きの情報から、昭和10年11月3日の入手と思われる。頭頂部は放射状の赤い手絡の上に緑で大きく「乙」の字を描き、前髪先端横から鬢の後ろにかけて赤い鬢飾りを多数重ねて華麗である。面描の筆致は眉・目とも鋭く伸びて、張りのある素晴らしい表情となっている。本作と同様の細胴で太い緑ロクロ線の作例は「古計志加々美」に載っており、『茲に掲出した製品の如きは傑出した出来映えを示し、寧ろ庄七を凌駕する妙趣を見せて居て…』と評されている。
昭和15年作(左:8寸)と並べて見た。本作とは5年程の月日が経っているがその間の変化はかなり大きいと言って良いだろう。第一次こけしブームの中で、庄七を中心とした秋保こけしが完成し、他の工人もそれに倣ったこけしが作られたのであろう。
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