第712夜:奴鬢の忠蔵!
「奴鬢」という言葉をご存じだろうか…。先月末にヤフオクで入手した忠蔵こけしは、出品タイトルに「奴鬢/珍品」と出ていた。筆者は「奴鬢」という言葉を知らなかったが、出品者は委託業者で元の所有者のリストに「奴鬢」という言葉があったようだ。平頭に描かれた鬢が、普通に見かける忠蔵のこけしよりもかなり大きい。実は本年4月に縁あって入手した戦前の忠蔵こけしの鬢がやはり大きなものであったことを思い出し、比べてみたくなったのである。今夜はこの2本のこけしを紹介したいと思う。口絵写真は戦前の忠蔵こけしの表情。
写真(2)がその2本のこけしである。左は今回ヤフオクで入手した7寸5分。 右は戦前作で大きさは8寸。共に平頭で細めの直胴となっており、胴長のこけしである。胴模様は左は赤と黄色に緑の細線を挟んだ典型的な鯖湖模様。右は胴一面に花模様を配したもので、畳付きから上に伸びた緑の茎は巧み描かれ、川の流れのようにも見える。また花の赤の色が淡いピンク色で古風な色調になっている。いずれも署名は無く、右には胴底に鉛筆で「忠蔵」と書かれている。左には何の記載も無いが戦後のものであろう。
写真(3)で頭頂部から見てみよう。蛇の目模様は中央に中空きの太い黒円があり、その外側に細い黒円が引かれている。太い黒円の前端から三角形の山形の前髪が描かれているが、左の戦後作では小さく緻密に、右の戦前作では大きく粗目に描かれて時代の差を感じさせる。
そして写真(4)が問題の鬢である。太い筆で上からバッサリと描き、下部が前に跳ねる。忠蔵こけしの鬢は一般的にはそれほど大きいものではなく、またキンこけしの鬢にもこれほど大きなものは見当たらない。しかし戦前から描かれているといことは、何か参考になるものがあったのであろう。この奴鬢、戦後作(左)は一筆描きなのに対し戦前作は二筆で描いており、一段と太くなっている。鬢の後ろには渦巻状の大きなカセが描かれているが、このカセは戦後作の方が大きめである。
写真(5)が面描である。描線はいずれも面相筆で細く丁寧に描かれている。2本とも整った鯨目であるが、戦前作は眉・瞼の湾曲が少なく顔の上方に描かれ、眉目は左右に離れていて端正で凛々しい表情になっている。小さな二筆の口には紅が点されている。戦後作は目の位置が真中あたりに下がり、通常の鯨目に近くなっている。
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