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第708夜:吉弥の黒ピーク

Kitiya_60sai_kao 8月に入って最初の週末、外は猛暑、内は五輪中継で賑わっている。三年振りの五輪であるが選手の戦いは正に悲喜こもごもである。さて、第706夜では佐藤吉弥のこけしを取り上げたが、それから程なくして吉弥のピーク期と思われる黒ロクロ線のこけしがヤフオクに現れた。保存も良く、是非欲しいと参戦したが、想定を遥かに超える金額になってしまった。それでも何とか入手することが出来たので、今夜はその紹介である。口絵写真はその吉弥こけしの表情。

Kitiya_60sai_2men

こちらがその吉弥のこけしである。大きさは8寸。胴底には60才の署名がある。戦後の復活作についてはkokeshi wikiに写真と解説が載っている。それを引用しよう。『戦後は昭和30 年に復活、自ら挽いたものは頭が横に広がり、肩も張っていてバランスがよい。表情は力強く剛直でいかにも吉郎平系列らしい。
本作は正にその頃のもので、横拡がりで角張った頭に肩の張った直胴の形態が美しい。眉目の湾曲はあまり大きくなく、切れ長の瞼に横に打った眼点は右方向に視線を向け、妖しい雰囲気を漂わせている。目の横から描かれた鬢は短めで
平筆ではなく、細筆でバサッと描いている。下方の黒ロクロ線は畳付きに触れるほどである。最下部の菊花の下に緑でZ字形の茎を描いているのは珍しい。

Kitiya_60sai_hikaku

Kitiya_60sai_atama_hikaku Kitiya_60sai_syomei_hikaku

61才の吉弥(右)と比べてみよう。頭と胴の形態、面描、頭頂部の手絡模様(左の60才では前髪の後ろに赤点が無く、後頭部には赤で三山が描かれている)など、その変化は意外と大きい。復活初期の戦前作にあった遠刈田のいぶし銀のような古風さは、一年も経たない内に世の中が求めていたスマートで愛らしいこけしに変わっていったことが良く分かるのである(第706夜も参照)。

Kitiya_60sai_3hon_hikaku

哲郎の写し(左)も入れて並べてみた。哲郎が手本にしたのは、中央の吉弥の復活初期のものではなく、右のようなこけしであったと思われる。なお、哲郎の胴裏に描かれているあやめの模様は、右2本の吉弥のこけしには描かれていない。

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