第718夜:大寸の治助こけし
太治郎こけしに傾倒している国恵志堂にとって、それと対極にある治助のこけしは縁遠いものであった。そのためか治助のこけしは晩年作が2本あるのみで代表作には出会わなかった。先日のヤフオクに久し振りに治助が出ていた。1尺4寸余りの大寸であったが、その端正で渋い表情に惹かれて入札に参加した。最低価が高めであったためか様子見の愛好家が多く、締切直前になって価格が高騰したが何とか入手することが出来た。今夜はそのこけしを紹介しよう。
こちらがそのこけしである。大きさは1尺4寸。久松氏の旧蔵品で「こけしの世界」に写真が掲載されている。昭和14年の作。特大寸であったが出品写真から、胴は刳り貫かれていて途中で上下に分かれていることが分かり重量的にはさほど重くは無いと思われ、事実その通りであった。また、頭も刳り貫かれ中にはガラが入っている。全体的に古色が付いており退色も激しいために、墨ははっきり残っているが赤はかすかに分かる程度で、その他の色が使われていたかどうかは定かではない。胴にはロクロ線の他に、下部には墨で花のような模様が描かれている。
胴上部には木の節と節穴があり、その部分にあたかも節を隠すように黒いロクロ線が引かれている。上の節には節を囲むように墨で飾りを付けている。戦前のこけしには、木地に節やヒビのあるものも多く、それらを巧みに隠したり模様の一部に取り込んだり、工人の苦心の跡が見受けられる。治助のこけしは、この14年から胴に墨を用いるようになったと言われており興味深い。
第一次こけしブームの昭和10年代中頃、土湯系では太治郎の人気が絶大であり、その影響は他の多くの工人にも及んでいた。それは治助においても避けられないものであり、面描に見ることができる。
太治郎の1尺3寸(左:昭和10年頃)と並べてみた。対極のこけしと言われた太治郎と治助。ともに最も油の乗り切った頃の作品である。極大寸であるために多少誇張された部分があるかも知れないが、両者の特徴が分かると思う。
頭部の描彩を比べてみた。「木の花(第11号)」の連載覚書「治助こけし」の中で『また横びんは昭和14年から極端に長く内側に曲がってくるが、これは太治郎の影響と思われる。』と解説されている。また、15年以降になると『蛇の目が極端に下がってくる』とあるが、14年の本作ではそれほど下がっていないようだ。
こけしは1本ずつ眺めても十分に楽しいものであるが、並べて比較することでより幅広く鑑賞することが出来、こけしの世界の奥深さも見えてきて興味は果てしなく広がっていく。
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