第719夜:伊東東雄の鳴子型
先日、伊東東雄のこけしがヤフオクに出ていた。東雄のこけしは少数ではあるが時々中古品市場で見かけるが、それは小寸の蔵王型のこけしであった。その手のこけしは以前入手しており、第986夜で紹介した。そこでも、鳴子系の工人である東雄が何故蔵王型のこけしを作ったのかを疑問として残しておいた。今回の出品作はkokeshi wikiにも掲載されており、高井佐寿氏の旧蔵品であった。1尺1寸の大きさに一旦は躊躇したものの、出来の良さに魅せられて入手した。今夜はそのこけしを紹介しよう。
本こけしの入手と東雄のこけしに関しては、高井氏が「木でこ」215号に『伊東東雄の鳴子型こけし』として解説を載せているので、それに沿って見てみたい。そこには今回の大寸こけしの他にもう1本8寸の東雄こけしが写真で掲載されている。その8寸こけしは高井氏が平成28年に「楽語舎」から入手したもので、こちらも本年3月にヤフオクに出品され、筆者も応札したが高額になったので断念した。高井氏はその後、小田原在住の東雄に連絡し、29年1月末に訪問して色々と話を聞いている。
東雄は昭和12年の生まれで、中学卒業後に先輩である高橋力雄(高亀の縁戚で高亀で働いていた)を追って武男の弟子となった。力雄と東雄は木地挽き専門で早朝から夜遅くまでひたすら木地を挽き続けた。3年程経って、こけし製作を願い出たところ、許されたのは蔵王系栄治郎の小寸こけしであり、高亀の鳴子型は作ることが出来なかった。この蔵王型は50~60本程作り、こっそり作った鳴子型が数本あったという。高井氏が入手した8寸はこの時の1本と思われる。鳴子型を作れないことを知った東雄は小田原で活躍中の力雄に相談し、自身も小田原に移って木地業に従事した。小田原でも小寸こけしは作ったが本業が忙しく、こけし製作は止めた。70歳で木地業を止めた折、久し振りに鳴子型のこけしを作った。今回のヤフオクに出た大寸こけしはこの時のものとのこと。
こちらが今回入手のこけしである。大きさは1尺1寸。東雄70歳(平成19年)頃のもの。頭は横広気味の平頭、胴は下部にかけてやや広がっている。小田原でも木地技術の優秀さは知られていたようであり、本作も頭と胴のバランス良く、ブランクは感じさせない。木地はやや赤みを帯びた材で、描彩は赤・黒・緑ともポスターカラーが使われている。そのため色彩は鮮明であり、美しい木地と良くマッチしている。前髪・鬢・水引は大振りにゆったりと描かれているが、眉・目の筆致には勢いがあり、真っ直ぐこちらに視線を送っている。高亀のこけしとして第一級のものと言えるだろう。
頭頂部と胴底の写真である。大寸のためか胴底を刳り貫いて底上げをしている。
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