第742夜:2本の末吉古品
花巻の佐藤末吉のこけしは、その最初期と思われる橘旧蔵品(「こけしと作者」掲載品)を入手したことから興味を覚え、戦前のものを中心に集めてきた。今年の2月頭にヤフオクで入手した古品は特に珍しいもので、2年程前に入したものと並べてその違いや作られた経緯などを考えてみた。今夜はその2本をもとに末吉古品を眺めてみたいと思う。口絵写真は本年入手した末吉の表情である。
佐藤末吉は姉の夫が鳴子の伊藤松三郎であったことから、松三郎に弟子入りして木地修業を始めた。そのため、末吉のこけしについても松三郎のこけしを継いでいるように思われるが、松三郎がこけしを最初に作ったのは昭和13年からで、米浪庄弌氏の勧めによるとのこと。従って、それ以前に末吉が作ったこけしに関してはその素性は定かではない。その戦前の末吉のこけしで明らかに松三郎とは異なる様式のものがあり、kokeshi wiki掲載の深澤コレクション(写真左)や鼓堂コレクション(「愛玩鼓楽」No762)に作例が見られる。今回のこけしは、それらと同手のものである。
こちらがそのこけしである。大きさは1尺2分。胴底には「14年7月」の書き込みがある。木地形態は鳴子系で、胴は長めで中央部でやや凹み、肩の山は大きく盛り上がっているが無地のままである。丸い頭は胴に比べて小さめである。頭は胴への嵌め込みであるが緩めでキナキナに近い。胴模様は上に横菊、下に正面菊を配した菱菊様式であるが、両横脇には蕾が描かれている。前髪の後ろからは二本の細い黒線が描かれている。その両脇に描かれた水引は放射状に垂れ下がったもので、この頭頂部の様式は鳴子系では見られない。面描は小さく、顔の中央部に寄っている。南部系の雰囲気が漂うこけしである。
こちらにもう1本の末吉(右:15.10.4)と並べてみた。左端は小松五平(S10頃)、右端は松三郎(S15頃)である。中央2本の末吉は底の書き込みによれば1年ちょっとの違いである。それにしては作風の変化が大きい。右の末吉が松三郎の影響を受けているのは何となく理解できる。頭頂部の様式などもそっくりである。しかし胴横の蕾が末吉は花開いて描かれているが、松三郎では描かれていない(松三郎のこけしで胴横に蕾が有るのは見た事がない)。一方左(今回)の末吉は左端の小松五平の様式に近いとも言える。五平のこけしにも胴横の蕾は描かれており、これは金太郎系列の特徴ともなっている。従って、末吉のこけしが当初は松三郎ではないが、金太郎系列の影響を受けていたのは間違いないと思われる。
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