第753夜:丑蔵か善作か…
いよいよ6月、「こけしの催事とかけて、大谷翔平と解く。その心は『6月がピークでしょう』(笑)」。大谷は6月を前に既に20号HRを越して快進撃中、こけし催事も5月末からの山形展を皮切りに、以後毎週のように開催が予定されている。最近は天候が不順であり、それが心配ではあるが…。さて、先日ヤフオクで戦前の丑蔵というこけしを入手したので、今夜はその紹介である。口絵写真はその表情。
戦前湯田時代の丑蔵のこけしには、小林善作のものが混在しているとも言われている。先日のヤフオク出品の丑蔵も善作の匂いがプンプンとしていた。そのこけしは童宝舎の旧蔵品で「コレクション図集(その参)」の丑蔵4本の中に載っており(No.132)、「No.132は割れ鼻で丑蔵にしては珍しいものではなかろうか」と解説されている。一方、この手のこけしは善作として紹介されているものも多く、Kokeshi wikiの小林善作の項を見てみると〔32.2cm(昭和14年)(ひやね)〕が鼻は異なるが良く似ている。また<こけしの美>ではモノクロ写真の鹿間蔵(151)が大きさは異なるが鼻も同じ割れ鼻で、ロクロ線の様式も同じであり本作と酷似している。
こちらが、本作である。大きさは8寸2分、胴は通し鉋であり、頭への緩い嵌め込みとなっている。この木地様式は師匠である丑蔵と同一である。頭は縦長で顎の部分がややほっそりとしており、胴は頭に比べてやや太目となっている。前髪は二筆で左右に分けており、鬢は三筆で外側が下がっている。眉目の湾曲は少なく、眼点は小さい。鼻は割れ鼻、口は結び口で赤を塗っている。胴上下のロクロ線は赤と緑の同じ太さのものを重ねている。胴模様の菊は各花の花弁が放射状に開いた正面菊を三段に重ねている。端正で風格を漂わせ、古武士を思わせるこけしである。
丑蔵、善作の戦前作と並べてみた。左は丑蔵、右は善作(千夜一夜(1)の第362夜で紹介)である。
それぞれの頭頂部の手絡の様式、顔の表情、胴底の様子である。手絡は右2本はほぼ同じで、左の丑蔵が少し違う。面描では、丑蔵は前髪が三筆、右2本は二筆。鬢は丑蔵も三筆であるが外側が下がってはいない。眉・目は丑蔵は湾曲が大きく、上下の瞼の間隔も広く眼点も大き目、右2本は湾曲が少なく眼点も小さい。鼻は本作のみ割れ鼻で左右は猫鼻。口は丑蔵は笑口で右2本は同一の結び口。右2本を比べると鼻と鬢の描法が異なるが、表情の雰囲気は似ている。胴模様は、丑蔵は横菊を重ねたもので、右2本は正面菊の三段重ね。胴底は、左2本は通し鉋で、右の善作は綺麗に整形されている。こうして比べてみると、真ん中のこけしは善作に間違いないと思われる。いずれにしろ、丑蔵と善作、湯田の風土を体現した素晴らしいこけしである。
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