第767夜:盛の7重入れ子達磨
先月末のヤフオクに高橋盛の入れ子達磨が出ていた。達磨はこけし工人なら誰でも作っているが、これが入れ子となると作る工人は稀である。そもそも入れ子物を作ることが難しいのだと言う。木地物の挽き方には、ロクロの軸に対して正面から挽く「縦挽き」と横から挽く「横挽き」の2つがあり、縦挽きは入れ子に適しているが横挽きは難しいため、鳴子より北の系統の産地では入れ子物は殆ど見られないのである。口絵写真は最小の達磨である。
縦挽きの産地の中でも入れ子物が盛んなのは遠刈田系で、戦前から達磨やこけしまた手の込んだ七福神や弁慶なども作られている。これらの技術は木地物の先進地である小田原や箱根などから伝わったようだ。ところで高橋盛は鳴子系の工人であり、木地挽きは横挽きである。戦前から最大の木地師を要した鳴子にあって、入れ子物は全くと言って良いほど目にしない。戦前物としては盛が唯一なのではないだろうか…。
盛が入れ子物を作り始めたのは秋田に行ってからと思われる。昭和14年1月、盛は一家をあげて秋田の工芸指導所に移り、そこで木地指導を行うとともに木地製品も作っていた。しかしながら、秋田での木地製品の売り上げはあまり良くなかったのであろう。鳴子では老舗「高勘」の当主としてこけしを中心に一般的な木地製品を作っていれば良かったが、秋田ではそれだけでは厳しく、他の木地玩具などにも力を入れたのだろう。そこから、入れ子のこけしや達磨、胴中に帯を付けたこけしや胴が縊れたもんぺこけし、また木肌を纏ったこけしなどの作っている。盛一家の秋田時代の活動状況は殆ど知られておらず、木地挽きの弟子は数人知られているが、その他の女性描彩者も皆川たみ子以外は知られていない。
さて、入れ子の達磨は同じような形態で中が刳り貫かれた入れ物を大きさを少しずつ変えながらすっぽり収まるように作らなければならない。また入れ子の数を増やせばそれだけ薄く小さく作る必要があり、優れた木地技術が要求される。また、長い期間の間に変形しないように木材を乾燥・維持しなければならない。
こちらが今回の達磨である。7重にしたのは、七福神など7という数が縁起が良いからだろう。大きさは、大きい順に13cm、10cm、8cm、5.5cm、4.5cm、3.2cm、2.2cmであり、胴部がやや膨らんだ安定した形態である。遠刈田の入れ子達磨では、身体の色を1体ずつ変えているものもある(第679夜参照)が、本作は赤一色である。一番大きな達磨は外光に当たっていたためか色がやや黒ずんであるが、中のダルマは明るい赤になっており、これが作られた当時の色なのであろう。盛以前の「高勘」で達磨の存在は聞いたことが無く、伝統性は無いだろう。
こちらが入れ子の内部の状態である。左が胴体下部で中央に最小の達磨を入れてみた。右が胴体上部から頭の部分。
左は大きい物から3体の達磨と内部、右はそれより小さい物3体と内部である。
最後に、7体全部を重ねてみた。見事な円錐形になっており、木地技術の素晴らしさが偲ばれる…。
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