第801夜:下目の傑作(武蔵)
高橋武蔵の戦前・昭和一桁台のこけしは目の位置が低い所謂「下目」が特徴である。この下目、愛らしさの根源ともなり大きな魅力ともなっている。一方、その位置や描線・筆致によって表情には微妙な変化が表れ、その違いもまた見どころとなっている。その下目は息子の正吾さんに引き継がれて「高勘」を代表する表情ともなって目にする機会も多い。先日ヤフオクに出品された武蔵の下目は特に素晴らしい出来栄えで何とか入手できたのは有難かった。今夜は武蔵のその下目のこけしを紹介しよう。口絵写真はその武蔵の表情である。
こちらがそのこけしである。大きさは8寸、胴底は鋸の切り離しで、署名や書き込みなどは一切無い。全体的に古色がかなり付いており、赤と緑の色彩は残っているが胴に黄色が塗られていたかどうかは判然としない。また、三段重ね菊の真ん中の花弁と胴裏の肩から肩の山にかけてかなり大きな水濡れ跡が残っている。
さて、このこけしの特徴を見てみよう。頭は頭頂部がやや平らで縦、横の長さはほぼ同じの蕪形である。胴は中程でやや反りがある直胴で肩の山は低く、胴下部に鉋溝が1本入っている。胴上下には赤と緑のロクロ線が引かれているが、肩の山のロクロ線は赤のみである。胴模様は三段の重ね菊で花弁は外下がり、左右とも真ん中の花弁から上に蔓が伸びており、蔓の先は丸まって垂れている。この蔓は最上段の菊花の花弁の手前を横切って描かれており表蔓であることが分かる。重ね菊の下には緑の土玻が描かれている。
次に面描であるが、眉は湾曲が少なく、位置は顔の中央よりやや上で前髪とは近く、オデコはあまり目立たない。目はかなり下方にあるため、眉と目は離れている。肝心の目は筆致も、左右の間隔も程よく、眼点も若干大きめで絶妙なバランスを保っている。右目の下がりはやや感じられる程度である。
文献などで本作と特徴が似ているこけしを探すと、「木の花」18号の口絵カラー写真の左から2番目(久松蔵、8寸5分)が近いようだ。
左は正吾さんによるその久松武蔵の忠実な写しである。木地形態の特徴(低い肩の山、胴下部の鉋溝)、胴模様の特徴(表蔓)などほぼ同じである。但し、面描については、久松武蔵は眉の湾曲が大きく、目の位置も本作ほど低くはなく、明敏な表情になっていて醸し出す雰囲気はやや異なるようだ。久松武蔵は昭和初年となっており、本作もほぼその頃の作と思われる。
では、国恵志堂の下目の武蔵(左、第283夜)と比べてみよう。左作はやや胴が細く、胴下部の鉋溝は無く、肩の山もやや高くなっていて、ロクロ線も赤・緑の2色である。胴模様の蔓は最上段の菊花の上を通っておらず(裏蔓)、また最下段の菊花にも蔓が描かれている。左作はオデコも広く右目の下がりも大きく、より下目が顕著になっており、本作よりは後(昭和3年頃)と思われる。
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