第805夜:伊之助の珍品
肘折系の斎藤伊之助のこけしについては、第173夜と413夜にその尺物を紹介した。いずれも昭和15年のものと思われる。伊之助には小寸(4.5寸程)のものもあり以前から気になっていたが現物に出会う機会がなかった。先月末にその伊之助の小寸がヤフオクに出品されたが、出品価が高かったためか他に応札者が無く、国恵志堂にやってきた。今夜はそのこけしを紹介する。口絵写真はその表情である。
こちらがそのこけしである。大きさは5寸。このこけし、何と言ってもその形態に目が行く。細い胴に胴底部が台状に広がった形態は他に見た事が無く、出品タイトルの「珍品」が納得される。台状の部分を除くとほぼ4寸5分で、他の伊之助の小寸物とほぼ同じになる。また、この台状の部分と胴上部の肩口には太い赤とそれを挟む細い緑のロクロ線が引かれていて、これは大寸物の描彩と同じである。伊之助の小寸物では、頭の太さが胴の太さがほぼ同じか頭がやや小さく、1本の細い木材から作られたことが連想される。しかし本作では胴の太さが2cm、胴底の直径が2.8cmあり、それ以上の太さの木材が使われたことがわかる。
どうしてこのような形にしたのであろうか…?
1つは、胴の上部に節などがあって、それを削ったために細くなってしまったということ。これは土湯の高橋忠蔵のこけしなどに作例がある。もう1つは、急に先が細くなっている枝の部分を使ったため、その先の太さに合わせて上部が細くなってしまったということ。あるいは意識的にこのような形にしのであろうか…。
先に紹介した尺物と並べてみた。こうして見るとその細さが一段と際立っている。小関幸雄の戦前こけしに使われた「ペンシルこけし」という名称がピッタリである。胴の重ね菊は胴が長いためか5段になっている。
面描は張りのある一側目に長めの丸鼻、口は墨2筆の間に紅を差しているが、上下の唇の長さが同じため太寸物のような笑口にはなっていない。また、本作では鬢飾りの下部に耳が描かれている。
左は頭頂部の描彩で緑の模様も入っており、大寸物と同じである。右は胴底の状態で、署名が本人かどうかは分からない。
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